Cool eastern rim of the North Pacific during Late Cretaceous time: a seep-carbonate paleothermometry from the Nanaimo Group, British Columbia, Canada

2017年9月26日 17:30 カテゴリ:Article

  

Jenkins, R.G., Hasegawa, T., Haggart, J. W., Goto, A. S., Iwase, Y. and Nakase, C. (2017 )  Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology . vol.487  pp.407-415.  Link

概要

海底にも温泉や冷泉がありますが,メタンを含む海底冷泉を我々はメタン湧水と呼んでいます.

海底下で生成されたメタンが海底面から放出されるのです.といってもほとんどの場合はそのメタンは堆積物中に生息する微生物に使われて海底からメタンは出てきません.

それで,そのメタンを利用する微生物,なかでも嫌気性のメタン酸化古細菌というグループ(一緒に硫酸還元菌もいる)がメタンを食べると,石灰岩がつくられます.その石灰岩を構成する酸素の同位体比を測定するとその岩石形成時の温度が推定できます(当時の海水の組成か仮定した上でですが).すごいですよね.鉱物が沈殿したときの温度がわかるのです.

そうはいっても万能のツールではありません.石灰岩は地層中の圧力や熱によって変質してしまうこと(続成という)が普通にあり,そうなると同位体比を測定しても正確な温度を見積もることはできません.

私の同僚の長谷川先生がカナダのブリティッシュコロンビア州ホーンビー島の白亜紀の地層を調査したところ,非常に保存状態の良いアンモナイトを発見しました.アンモナイトは遊泳生物ですので,殻の同位体比を測定してもアンモナイトが生息していた水深の温度しかわかりません.その当時の海底の水温を知るすべはないでしょうか?あったのです.長谷川先生はアンモナイトとともに,メタン湧水の痕跡と思える岩石を発見したのです.そこから私とも共同研究がはじまり,今回,その白亜紀の地層中に含まれるメタン湧水性の石灰岩の酸素同位体比から当時の海底の温度が約8℃であることをつきとめました.海底の水深は外側陸棚から上部漸深海帯にかけて,つまり約200m前後だと考えられます.

白亜紀の地球は大気に含まれる高濃度の二酸化炭素による温室効果でかなり暖かかったことが知られています.極には氷はありませんでした(異論はありますが).そのような地球の状況で,約200mの水深で約8℃の水温というのは非常に冷たい水です.どこか当時のブリティッシュコロンビア近くで冷たい水塊が作り出される場所があったと推定されます.今後,当時の海流などの調査が進むことを期待しています.