第68話 古生物学会から始まる
2019年6月 9日 12:00 カテゴリ:兀天狗
古生物学を専攻する学生の多くが挑戦する学会のひとつに,古生物学会があります.
古生物学だけでなく,地質学や(古生物の研究につながる)現生生物学なども含めた幅広い生命進化のカンファレンスと言っても良いでしょう.
私は古生物学の研究者にも,アミノ酸の可能性を伝えたくて,研究生活を離れる前に参加したかった学会です.
そして,同じ志を持つ人を求めていました.
さて,この古生物学会は年2回開催されるのですが,
その時期が1月末(2月頭)と6月なのです.
1月末(2月頭)と言えば,卒論・修論の締め切り及び発表会が重なってきます.
なので,忙しさに拍車をかけるリスクが伴います.
そういった点に関しては,私も多少の不安がありましたが,参加しなければならない理由がありました.
なぜなら,1年前にひとつ下の後輩が卒論発表会の3日前に開催された古生物学会に参加したからです.
後輩がそれだけのミッションをクリアしてきているのだから,負けるわけにはいかない.
要は,悔しかったのです.
また,古生物学会の段階で発表内容がまとまっていれば,修論発表も上手くいくことも期待できます.
古生物学会の反省を活かして,よりよい修論発表が作れますもんね.
もちろん,逆に大失敗のリスクもありますので,参加する学生さんは自分のキャパを考慮して判断してください.
さて,私が参加した古生物学会の会場は愛媛県でした.
初愛媛県!!!!
ミカンが食べたい一心で,ジェンキンズ先生とドクターのセキさんと3人で車を走らせます.
私は,適度な人数での車移動が好きです.
いろいろ話しながら移動できるので楽しいです.
翌朝,愛媛大学に到着した私たちは,セッション会場へ向かいます.
私は順番が早かったので,少し落ち着きませんでしたが,すぐに私の番になりました.
いつものことながら内容がボリューミーなので,時間内に終われるのか,それが問題である.
そして,分析屋ではない化石屋に「アミノ酸の窒素同位体比が"分析できれば"栄養段階がわかる」ということを誤解させてはいけません.
分析すれば値は出ますが,その値が試料自身の値であることをどうやって示すかが重要なのです.
今回の質問では,
「化石試料として(例えば貝殻化石なら破片),どのくらいの量が必要なのか」
「かつてできなかった,バルクの窒素同位体比とどう違うのか(なぜアミノ酸なら可能性があるのか)」
両方とも大事な視点ですね.
質問があると,次の課題がより明確になるので,ありがたいです.
量については,断定できませんが,私の修論に記載しております.
バルクとアミノ酸の違いは,たくさんメリットがあります.
同位体分別,含有量,個体数,不確かさなどが挙げられますが,いずれも発展途上でまだまだ検証しなければならないことがあります.
発表を終えた私は,佐藤さんと一緒に休憩室で一服していました.
発表内容には佐藤さんからお借りした試料や一緒に採取した試料もありましたので,佐藤さんもその結果をたのしみにしていたそうで.
しばし,おしゃべりです.
ポスター発表が始まる時間が近づき,休憩室を出ようとしたとき,
「さっきのアミノ酸の話だけど,詳しく聞かせてくれない?」と,とある先生から声をかけていただきました.
どうやら,古生物の食性の研究をしていたらしく,私の研究に興味を持っていただいたようで,いろいろお話をさせていただきました.
その後,佐藤さんから
「いまの方の名前わかる?」ときかれ,
「わかりません」と答えました.
佐藤さんがびっくりしながら
「あの方は加瀬先生だぞ!!!ちゃんと連絡先訊いてこい!!」と言われました.
いや~いろんな先生のお名前は論文などで目にすることが多いですが,
顔までは存じ上げませんでした.失礼!!!
ジェンキンズ先生にも一連の流れを伝えると,びっくり仰天!!
それとともに,「これはチャンスだ」と教わりました.
学会を通して,自分の顔と名前と研究内容を知ってもらい,コネクションを広げることは重要なのではないでしょうか.
そのコネクションを通して,サンプリングに誘われたり,試料を提供していただいたり,飲みに行ったり,チャンスが広がります.
私もこういうことがあって初めて,学会に参加することの意義のひとつを学びました(あと2ヶ月で修了).
学生のみなさんも積極的に学会に参加し,じぶんから声をかけてみましょう.
その後,改めて加瀬先生に挨拶し,
国立科学博物館へ招待していただけることになりました.
残り2ヶ月で修了ですが,まだ研究欲が上昇し続けます.
道後温泉に入り,たくさんのみかんを買って,愛媛県を堪能した私たちは帰路につきます.
しかし,ここで大問題が発生です.
スーパー大雪です.
福井県の国道8号線で立ち往生していたあの大雪です.
私たちが滋賀県に入ったくらいから雪がかなり激しくなってきました.
高速道路なのに,40km/hで走っていました.
幸いにも,ほかに車は走っておらず,だれにも迷惑をかけていません.
しかし,このままの天気で進むべきか,SAで休んで,天気が良くなるのをまつか,選択が迫られました.
私は休んで体力と天気が回復してからがいいかと考えましたが,
ジェンキンズ先生の見立てでは,これは止まないし,山(滋賀~福井)を抜ければ大丈夫と判断し,金沢へ向かいます.
雪は止みません.
本当に無事に帰れるのだろうか.
車の中は緊張感が張り詰めています.
先生が一言.
「こんなときに不謹慎かもしれないけど,こういう危機的状況,けっこう好きなんだけど.」
思わず私も
「それすごくわかります.いまちょっと楽しいです.」と答えました.
それ以来,ジェンキンズ先生と私はハイテンションになりました.
疲れて寝ているセキさんを起こさない程度に車内は盛り上がりました.
絶望的な状況ほど,テンションが上がるジェンキンズ研魂を心の奥に感じながらひた走ります.
3年も一緒に研究してくると,似てくるもんなんですかね(笑).
だいぶ時間はかかってしまいましたが,無事に金沢に帰ることができました.
いまでも,あのままSAに休んでいたら,帰れたのだろうかと思います.
先生の勘が冴えました.
大学に着いた頃には日付もまわっており,修論発表会は2日後です!!!!
やったるでー!!!