第65話 30時間連続分析

2019年5月19日 12:00 カテゴリ:兀天狗

我々に残されたマシンタイムも残り2日.

当時の装置にはオートサンプラーが付いていませんでしたので,全部手打ちでした.

手打ちの分,勉強できることもありましたよ

1試料65分なので,1日に測定できる試料数はがんばって10試料くらいですかね(最初と間と終わりにスタンダードを含む).

しかし,チームジェンキンズが測定したい試料は現生化石合わせて20試料くらい+標準物質ですから2日間で終わらないのです.

う~ん,試料を選別して,いくつかの試料を諦めるべきかどうか考えていましたが,

私とジェンキンズ先生の出した答えは同じでした.

ぶっ通しで徹夜してでも全部分析したい.

我々に迷いはありませんでした.ワクワクだけです.

「2人いれば,どっちか休めるし大丈夫でしょ」

一般企業なら間違いなくブラックな発言ですが,ジェンキンズ研の師走は止まりません.

私自身もやりたかったので,とくにハラスメントではありませんのでご安心ください.

できない人やりたくない人は素直に「できません」と先生に伝えましょう.

先生の研究熱意は時に(特に師走)学生に負担がかかりますが,無理をすることはありません.

自分の状況をよく考えて,決断しましょう.

後藤さんにも装置の連続使用許可を得て,ぶっ通しの分析が決まりました.

無理をしないことと分析後の忘年会に参加することを条件に.

前日には,後輩のW君から,寝袋の借用許可も下りました.研究室一同のサポートを受け,30時間連続分析への準備は万端です.

朝9時から装置の立ち上げを行い,連続分析が始まりました.

作っておいた標準物質が揮発して同位体比がズレてしまうことを恐れていましたが,

1発目の標準物質の結果を見ると,その心配は不要でした.

順調に測定を進めていきます.

日も落ちてくると,研究室の学生が次々に帰宅していきます.

なかなか帰らない人もいましたが(笑)

先生もこどものお迎えやご家族の時間のために一時帰宅です.

人が少なくなってくると,集中できるもんですね.

私は追い詰められた状況になると,

「あ~,忙しいけど,それをやりこなしとる自分最高だ~.」と自意識過剰にポジティブになるドMなので,仕事も捗ります.

先生も帰ってきて,再び2人体制で挑みます.

先生から「睡眠をとらなくて良いのか?」と訊かれましたが,

私は全く眠くなく,ひたすらに元気でした.

たぶんアドレナリンがでまくっていたのでしょう.

先生が先に寝て,私は分析を続けます.

居室に戻ると,後ろの席のH君が突っ伏していました(笑).

無理をしまくっているH君にはいつも心配しています.

「きょうは帰りなさい」と伝えましたが,本人曰く,全然進んでいないからやらなければならないとか.

まずは体が資本ですから,無理はしないで欲しいですね.

卒論とか修論になると「やらなければならない」と,やりこみすぎる学生さんが多いと思いますが,

身体を壊してしまっては元も子もありません.

やりこむならアドレナリンが出ているときにしましょう.

朝5時くらいに先生が戻ってきました.

私もシャワーを浴びて,軽く睡眠をとります.

全然眠くなかったはずなのに,寝袋入ると,速効で寝ました.

身体は寝たかったのでしょうね.

さて,分析は現生試料を終えて,まずまずの結果.

次は,化石試料のアミノ酸を打ち込みます.

化石試料に含まれるアミノ酸は微量なので,まずはピークが検出されるのかどうか.

GC(MSとFID)でアミノ酸の含有量はざっくり推定していますが,窒素がどのくらい検出されるかはわかりません.

ドキドキですね.

1時間後,スクリーンセーバーを前に立つジェンキンズ先生と私は,

!!!!!!

ちらほらと,いくつかのピークがありました.

「うおーーーー!!!」と叫ぶ私たち.

目的物質であるグルタミン酸とフェニルアラニンのピークを切ってみると,

グルタミン酸は検出されましたが,フェニルアラニンは小さすぎて,切れませんでした.

残念ながら栄養段階を推定することはできませんでしたが,

一歩進んだ気がします.

フェニルアラニンが検出できないことは,危惧していましたが,やはりダメでしたね.

貝殻には元々フェニルアラニンが少ないので,やはり化石試料だと難しいですね.

それと,化石試料のアミノ酸を検出するためには,トータルの有機物量も増やさなければなりません.

したがって,酸化炉やキャピラリーカラムへの負担は現生の生体試料よりも大きいです.

課題が次々と見つかった実験でした(元々予想はしていましたが).

すべての測定を終え,装置を落としていきます.

やりきった感と同時に,装置への感謝です.

ありがとうガスクロちゃん.

キミに出会えてよかった.

また,いつか一緒にがんばりましょう.

装置を落とし,ガスを止めて,これで怒濤の1ヶ月は終わりです.

いや~装置の改良でゼミにも全く行けてなかったので,みなさんには申し訳なかったですね.

その分,修論発表会で輝かしい姿を見せられるように精進します!

さあ,今晩は地質グループの忘年会です!!!!

うまい酒が飲めそうです!!