第63話 座右の銘
2019年5月 5日 12:00 カテゴリ:兀天狗
GC/IRMSがトラブルに見舞われたため,しばらくは装置の改良ができません.
後藤さんをはじめとした装置利用希望の皆様には,多大なるご迷惑をおかけしたことを覚えています.
申し訳ございませんでした.
「あのとき,炉を折っていなければ・・・」と思わなかった日はありません.
後藤さんに原因究明していただきましたが,なかなか糸口が見つからず,
思うように進みません.
ただ,後藤さんは「装置にはトラブルがつきものだから仕方ないよ.」と常に前向きな意見.
そうですね.責任は感じていますがやってしまったことに関していつまでもクヨクヨしていても直りませんね.
「装置もそうだけど,同位体比が測定できなかった時の修論の組み立ては大丈夫?」と後藤さんから心配されます.
そこは私も不安でした.
装置の改良と並行して,「化石殻体内アミノ酸の組成」と「アミノ酸の回収率の向上」を進めていましたが,
夏の段階で,これでは修士をいただけるほどの成果が出ておらず,先行きが不透明でした.
私は同位体比が測定できないのならば,M3だなと考えていたくらいです.
M3に行ったら,D進も高確率で考えていたでしょう(笑).
装置改良が進められないので,「アミノ酸の回収率向上」を進めていきます.
私の研究では筋肉などの軟組織ではなく,貝殻の中アミノ酸を抽出します.
貝殻に含まれるアミノ酸は炭酸カルシウム(殻)に対して,ごく微量です.
それの化石となれば,なおさらです.
アミノ酸の回収率が悪いと,どこかで同位体分別が生じることも考えられるので,同位体比分析にかなり効いてきます.
なので,私はアミノ酸と炭酸カルシウムの試薬を使って,回収率について研究を進めていました.
しかし,予想とは異なる結果になってしまい,その理由が論理的に説明できません.
装置もトラブルがあり,試薬実験も思うように進みません.
暗雲が漂っていました.
そんな中,私に勇気をくれた言葉がありました.
私は週に1度,ポスドクのPrernaさんと外山さんと学生(希望者のみ)と一緒にご飯を食べていました.
使用言語は英語です.日常生活にも英語を使う機会を増やしたいと思い始めたこの企画(English lunch).
いつのまにか,当たり前の行事になっていました.
「How about your work?」と毎回聞かれるので,研究の進捗状況を説明します(もちろん他愛もない話もします).
「回収率の実験で,予想と違う結果になり,行き詰まっている」と顔を曇らせながら話す私に,Prernaさんはこう言ってくれました.
「何言ってるの!予想と違う結果になるのはおかしいことじゃないでしょ.
私たちがやっているのはサイエンティストでしょ!予想通りの結果を出すのが仕事じゃなくて,なぜその結果が得られたのかを考えるのがサイエンティストだよ!」
(もちろん英語です.全文は覚えていません.和訳は記憶を辿り,書きました.)
研究に行き詰まり,サイエンスの本質を見失っていた私を元の道へと戻してくれました.
Prernaさんが最後に一言.
Result is just result. (← これめっちゃ好きな言葉です)
この言葉を聞いて,肩の力がすーっと抜けて楽になりました.
そうですね.求められた解答が正解になる試験とは違いますね.
自分で考えて,たくさん議論して,回答を導かなければなりませんね!!
自分の目の前に起きた"結果"は,"その結果"を得るべくして経た"プロセス"があるわけです.
実験結果だけでなく,就活の内定やスポーツ,人間関係も当てはまります.
そのプロセスを理解し,次のステップへの改善点を見い出し,体現できる人が,どんどん伸びていくと私は思うのです(自分への戒めを込めて).
卒論発表で1位を獲れなかったこと,
M1のときに現実から逃げて,装置の改良が遅れたこと,
装置がトラブルになってしまったこと.
これらのすべてにも,Prernaさんの言葉が当てはまるわけです.
Result is just result.
この言葉を聞いた日から,何かの回路が正しく繋がったかのように,研究生活がどんどん楽しくなってきました.
いまでも,この言葉には支えられています.