第54話 White cliff ~ Cretaceous began from here ~
2019年3月 3日 12:00 カテゴリ:兀天狗
Folkestoneの露頭からは,白亜紀の由来となったのチョーク層が見えます.
(同じ層準ですが,厳密にはフランスに露出している地層が本家です.)
古生物学・地質学を学んでいる人間ならば,地質時代の名前の由来となった場所が近くにあるのに,行かない理由はありません.
Folkestoneの露頭から少し車を走らせ,チョーク層に向かいます.
おそらく,観光地でもあるので,道は整備されていました.
北海道の熊笹の茂みとは訳が違います.
私はこの写真が気に入っています(笑).
植物が繁栄して,あまり地質学的な写真ではないかもしれませんが,
我々の背丈をスケールに,チョーク層の壁(White cliff)・自然の広大さが見て取れます.
歩いているところが先生と二人で冒険しているようで,ツーショットもなかなかレアな写真です(佐藤さん,撮影ありがとうございました).
海岸線を進むと,チョーク層がどんどん近づいてきます.
白かった.
でかかった.
これだけ大きな石灰岩の地層は初めて見ました.
「ここから白亜紀が始まったのか」と思うと高揚します.
地学を学んでいなければ,大きな白いきれいな壁でしかなかったでしょう.
世界中にはいろんな地形や地質が広がっていますが,
地学の基礎知識を持っていたからこそ,この感動を味わえるんだと思うと,地学を学んでいてよかったなと感じますし,地学のおもしろさのひとつでもありますよね.
知識の有無に問わず,自然の造形物を楽しめるような人と結婚したいですね.
このチョーク層には,貝殻化石もありました.
ただ,この壁は観光名所のひとつでもあるので,カイムさん曰く,掘ってはいけないことになっています.
みなさんも,ハンマーなどで掘らないようにしましょう.
また,こういうところに来ると,ジェンキンズ研の楽しいイベントが始まります.
写真撮影会です.
こういう"ノリ"も旅先では大事ですね.羽目は外しすぎない程度に.
ジェンキンズ先生はカメラにとても詳しいです.
研究室の学生も,みんな最初にカメラの使い方を教わります.
シャッタースピードやISO感度,F値などの基礎から学べるので,カメラの知識がなくても大丈夫ですよ.
束の間の休息を経て,午後からは再び化石採取です.
昨日と同様に化石を掘り進めていきます.
私は,採れた化石・母岩を海岸の大きな岩のところに起きながら作業していました.
昨日採れなかった合弁のクルミガイもちらほら見つかり,好調でした.
「あそこにうろついている人は何をしているんだろう?」
先生がおもむろに問いかけます.
視線の先を見ると,波打ち際でうろうろしている我々のチーム外の人がいました.
「なにか落とし物でもしたんじゃないですかね?」
「いや,もしかしたらアマチュアコレクターさんかもしれないよ」
当たり前ですけど,イギリスにもアマチュアハンターがいるんですね.
ふーん,とあまり気にせずに私は作業を続けていました.
先生から離れた露頭でサンプリングしていると,そのアマチュアコレクターさんが声をかけてきました.
「キミは何をしているんだ?」
もしかしたら,地元の人が見知らぬ外国人に露頭を削られまくって怒っているのかと思い,ダッシュで降りました.
「化石を掘っています」
「ほう,俺も化石を探しているんだけど,君たちよりもっといいやり方を教えてあげるよ」
どうやら先生の言うとおり,アマチュアコレクターさんです.
「ほう」
と,おもむろに彼はアンモナイトの化石を取り出し,話を続けます.
「ここの露頭は泥岩で海岸沿いにある.この土地を利用するんだ.泥岩は水で簡単に洗われてしまうから,潮(波)が高いときに大きなブロックを削って波打ち際に落ちてくる.そして,海がさらにその泥を落としてくれる.すると,波打ち際には綺麗な化石がたくさん落ちてるってわけだ.キミみたいに高いところに登って,ハンマーを振らなくてもきれいな化石は簡単に採れるだろう.」
確かに~,と思いましたが,彼の言う"いい化石"と私にとっての"いい化石"は違います.
彼がポッケから出したアンモナイトの化石は,確かに500円玉くらいの大きさできれいな螺旋がわかる化石でしたが,波によって殻が削られ,置換された印象化石でした.
観賞用としては,"いい化石"だと思いますが,私が欲しい"いい化石"は,アミノ酸を保持していそうな殻をもった化石です.
なので,完全個体じゃなくても,欠けている化石でも"いい化石"なんです.
彼は,そうとも知らずに,私の採った化石を見て,「これは良くないね」と言って(いたはず),ポーイ!と海へ投げ捨てました.
Oh! Watashinokasekiga.......
まあ,クルミガイじゃなくて,イノセラだったので,そんなにショックはありませんでした.
(ただ,捨てなくてもいいんじゃないですかね~)
代わりに,コテコテに置換した10円玉くらいのアンモナイトをくれました(帰国してから同級生にあげた気がする).
Thank you しか言えねえ.
アマチュアコレクターは満足げな顔をして,去って行きました.
イギリスに来てからハプニングが多発して,楽しくなってきました.
これも左手首につけているユニオンジャックのミサンガ効果なんですかね.
ーーーーーーーーー今日から使える英語表現ーーーーーーーーーーーー
I'd like to start by ~ 「~から始めたいのですが」
I'd like to start by explaining about isotopic fractionation of amino acids through food chain.