田尻薄片製作所の田尻さんによる講演

2018年10月30日 18:40 カテゴリ:研究日誌

こんにちは.ロバートです.

講演「薄片作製の現場から」

今日は学部3年生から大学院生向けの地球学の全体ゼミ(通称大ゼミ;だいぜみ)で,田尻薄片製作所の田尻さんに来て頂いて講演をしていただきました.

タイトルは「薄片製作の現場から」

地学系の方なら当然知っている薄片ですが,「薄片」を知らない方のために薄片の解説をしましょう.

薄片とは?

薄片とは,岩石などを厚さ約30μmにまで薄くしたものです.このぐらいの厚さになると石すらも透けて見えるようになります(不透明のものもありますが).要は,光が岩石を透過するわけです.それで,光の振動方向をそろえて薄片を観察すると,岩石を構成する各鉱物が,光をどう通すのか(ねじ曲げるのか)などが観察できて,各鉱物の光学的な性質がわかります(実際には二枚の偏光板に薄片を挟んで光を透かして観察する).

その性質から,各鉱物を同定したりします.もちろん,鉱物同定だけではなくて,どの鉱物がどの鉱物のあとに沈殿したのかなどの晶出順序なども見ることができます.

ですから薄片作製というは地球科学分野の最も基本的な技術の一つとして位置づけられます.しかし,大学の中では薄片作成技術そのものについての授業はほとんどないのではないでしょうか?もちろん岩石学実験などの授業で薄片作製を行うこともあるかもしれませんが,マニュアルに沿ってとにかく薄片をつくったといえるところぐらいで終わってしまっているかと思います.

薄片作製技術も進歩している

でも,薄片製作技術は日進月歩で進んでいます.いろいろな技術開発で,いままでは薄片に出来なかったものが薄片になれば,それだけでモノとモノの関係が見えてきます.そこに最先端の分析技術を駆使した分析を展開すれば,元素や物質として何がどのように何と連結(連動)しているのかが見えてきます.

薄片作製は地球科学の基本のキなんだけど,生体鉱物や火山灰,風成層,断層岩などのとても脆弱な試料の薄片が作製できれば,露頭(地層)での観察では見えなかった情報が取り出せるようになる.

薄片製作では通常水と研磨粉を使って岩石を薄くしていくのですが,最近では乾式法なるものが開発されたようで,水があると膨潤してしまうような粘土鉱物やそもそも流れ出してしまう未固結でしかも固めることが難しい試料の作製などに使われている様です(大和田ほか,2013; 地質調査研究報告 / 64 巻 (2013) 7-8 号p. 221-224).

また,どんなに最先端な機器でデータを出していようが,その分析データの元になっている薄片がきたないとそもそも精度もわるくなる(EPMAなどの場合)ので,やはり基本技術としての薄片製作技術が重要であることをわかって欲しいと思って,今回,講演者に田尻さんをお招きしました(たまたま金沢にくる用事があったので,タイミングをうまくあわせることができました).

生物試料の薄片は前処理が大事(樹脂への置換はゆーーーーっくりと!)

s1631.jpgのサムネイル画像

今回のご講演をしてくださった田尻さんは,ここのところ,生物体の軟組織と硬組織の同時観察ができる薄片の作製にチャレンジしています.ほどよい配合の樹脂を調合し,生物体の軟組織を樹脂で置換し,固めて切るのです.この手法は田尻・藤田(2013)としてでまとめられていますのでご参考に.今日の講演でも,生物体への樹脂置換はとにかくゆーーっくり,ゆーーーーーーっくり,時間をかけてやるのがベストだという話がありました.

うちで金属うんちを持つ熱水エビを研究している学生がいますが,軟体部と,ちょっと硬い甲羅と,硬いけどぼろぼろの金属鉱物が詰まった胃袋があるという,まさに柔らかいモノと硬いモノが混在するやっかいな試料を薄片にしています.今年から冷凍エビを使うようにしたら途端にうまくいかなくなったのですが,実はゆうーーーーーっくりアセトンで生物体軟体部を置換して,ゆーーーーっくり樹脂でさらに置換するというところが短かったようで,「ゆーーーーーーっくり」が大事だと言うことが改めて実感していたところです.

それはさておき,今回は田尻さんに,たくさんの,そして様々な種類の綺麗な薄片を見せていただき,薄片作製の基本実践編として,試料切断からカバーガラスをかけるところまでのちょっとした気配り(コツ)などをレクチャーしていただきました.

今年の卒論や修論発表会ではたくさんの綺麗な薄片にお目にかかれることでしょう.学生のみなさん,期待しております.

そして忙しい時間を縫ってご講演して頂いた田尻さん,ありがとうございました!