年頭挨拶 これまでの振り返りと今年の抱負

2018年1月 4日 09:00 カテゴリ:研究日誌

明けましておめでとうございます.

私が金沢に来た2012年12月から丸5年が過ぎました.それ以前は長いポスドク生活時代にメタン湧水生態系の進化を中心に研究を進めてきました.金沢に来てからは,化学合成生態系が成立している4大環境(メタン湧水,熱水,沈木,鯨骨・竜骨)すべてをターゲットにしようと研究の幅を少し無理をして広げてきました.現在のうちの学生さんの研究テーマはまさにこの化学合成四天王(?)を網羅しています.また,2006年に少し手を出したもののポスドクのうちに手を出すのは危険だと思って続けなかった化石アミノ酸を用いた生態系の復元にも2015年から再び手を出し始めました.

これだけテーマを広げて果たして大丈夫か?,と自分でも思っていましたが,案の定本当に大変でした(笑).でも,学生の皆さんの頑張りとセンスに助けられてそれらの研究がまとまってきました.いや,むしろもっと大きな研究テーマに育ってきたと言った方が正しいです.当初は予想していなかったいくつもの面白い事象に出会い,次から次へと新しいテーマが出てきます.ありがたいことです.

2006年3月に博士号を取得して,指導教員に言われた言葉があります.「10年後も同じ研究テーマをしていたらダメだよ.新しい研究軸を探らないと」と.その当時はこの人は何を言っているのだろう?だって自分はずっとアンモナイトの研究をしているじゃないか.と思っていました.私の指導教員は棚部先生というアンモナイト類の生態や生活史が専門の先生です.

しかし改めて考えてみると棚部先生はアンモナイトという研究軸の他に,貝類の成長線解析というもう一つの軸を持っていました.成長線解析というもう一つの研究を先生がはじめてしたのは先生が大学院修了後に愛媛大学に赴任してからです.先生自身もアンモナイトというテーマ以外の新しい研究軸を着任した地で探ったのだと思います.助手として赴任した場所で,そしておそらく授業負担があまりない助手という時代に時間がかかるけども一つの研究軸にする上で欠かせない基礎研究を実施しようと決めたのだと想像します.瀬戸内海の浜で,現生貝類を用いて1個体1個体にマーキングして成長線の形成要因を探ったのです.しかも5年間にわたる追跡調査です.一度マーキングした貝を浜に再度放って,それを数年かけて追い続けるのです.大変な労力です.実際,この研究は貝類の成長線解析分野のパイオニア的な研究となりました.私を含めた学生たちは驚くほど多様な研究テーマを行っていましたが,それは先生自身が2つの少し離れた研究軸を持っていたから可能だったのかもしれません.

さて,私も助教として5年前に金沢大という新天地に着任しました.着任当時,長かったポスドク生活が終わったことに喜びを抱きながらも,これから定年までの約30年の間に何をしようか,と考えました.そのときに心に思い出されたのが,新しい研究軸を模索せよという先生の言葉です.それで,これまでの研究の幅を広げつつ,新機軸も模索していくことにしたのです.

詳しい話は別の機会に書きたいと思いますが,この5年で「化学合成生態系の進化の全貌解明」という野望を達成する準備が整いました.そして,化学合成とか光合成とか関係なく「生態系」の進化を解き明かす武器である化石アミノ酸研究もスタートさせることができました.もちろんこれは私の手柄ではなくて,多くの共同研究者のご協力と,そして何よりも学生さん達のがんばりによるものだと思います.

うちの学生達は本当にがんばっています.うちの研究室の研究テーマは学生さん達にとってはある意味「シンドイ」かもしれません.おきまりのルーチンがあるわけではなく,それぞれの研究目的に応じて観察手法や分析機器を自らが探し求めなくてはならないからです.分析を先輩に習おうとしても,先輩がその手法を使っていないことがほとんどです.よって他の研究室やよその大学で手法を学ばなくてはならないことも多いのです.つまり,研究を始めた当初は手法習得だけで試行錯誤の日々が続きます.当然,その間はデータがでませんから精神的にもシンドイと思います.学生さん達はそのシンドサに耐え,むしろときには楽しんで,充実した学生生活を送っているように感じています(指導教員からの一方的な見方ですが).

それで,その学生さんらの頑張りによって,うちの研究室の最初の5年間は本当に充実したものになりました.卒業生,現役の学生の皆さん,共同研究者の皆さんには感謝の言葉しかありません.悔やむべきはそれらの成果の多くがまだ日の目を見ていないことです.ここ5年で約20編の論文を出版しましたが,学生さんらの研究成果をあまり盛り込めていません.今年は学生さんらの研究成果をきちんと論文として出版すること,それを最大の目標にしたいと思います.

もちろん研究の途中経過は随時このHPやツイッターなどでお知らせしていきます.「アナガッチンガー」研究以来,まさにいまやっている研究を世に発信していくことが私のモットーですので,そこはどうにかこうにか死守していきたいところです(なんだかんだと忙しくてつぶやきが滞ることが多いですが).そして今年はちゃんと本の原稿を書きます.すでにいくつも執筆依頼があるのですが,まずは最初の1冊をちゃんと出します(編集担当の方には迷惑をかけすぎていますが,早いうちにどうにかします).

さて,思いの外長い文になってしまいましたが,今年もどうぞよろしくお願いします!皆さんにとっても良い1年でありますように.

2018年1月4日 ロバート・ジェンキンズ