研究室ゼミ M2の中間報告 化石生態系の復元に向けた基礎研究
2017年10月17日 20:59 カテゴリ:研究日誌
毎週火曜日は定例の研究室ゼミです.通常は朝9時からですが,今日は1年生向けの1限の授業があったので10時30分からスタートしました.
10月にもなるとM2(修士2年)やB4(学部4年)あたりが騒がしくなってきます.卒業・修士研究が佳境にはいってくるからです.データがたんまり出てきて,そのデータが示す事実関係から考察される最も妥当なストーリーを構築する段階に入るのです.その仮説を証明できる新たなデータ(もしくはだめ押しのデータ?)取得の方向性を定めるのです.この議論や作業が私は好きです.研究の中でももっともクリエイティブな,もしくは脳が活性化する時間だと思っています.
それで今日の発表者はM2の兀橋君でした.彼の研究テーマは,化石生態系における食物連鎖網の解明です.いや,それを行うための手法開発と言った方が正しいかもしれません.生体を構成する各アミノ酸の窒素同位体比を測ってあげると生態系ピラミッドの中での位置関係が見えてくるというすばらしい手法が10年ほど前から活発化してきたのですが,それを化石に応用するための基礎作りを彼が担っています.
過去の地球における生態系を復元する.古生物学者にとっては大きな「夢」です.
どの生物が何を食べていたのか,そして食べられていたのか?捕食ー被食の食物連鎖は生物同士の関係の根源的なものでしょう.それを化石の世界で理解しようというのです.これまでも歯の形態や捕食痕,胃内容物,糞など様々な証拠で生態系の一端が復元されてきましたが,その全体像をビシッと明らかにしようというのが彼の研究です.
もちろん,現生生物に使われはじめているとはいっても,その手法をすぐに化石に使うことはできません.化石のどこにアミノ酸が残っているのか?どういう風に残っているのか?本当のその手法を化石につかって良いのか?それを徹底的に検証していくのです.
兀橋君のデータによれば,ベストな産地を選べば白亜紀のサンプルでも,例えば貝の殻の中にその貝が生きていたときにつくったアミノ酸が残っています.貝殻というのはたいてい炭酸カルシウムでできています.その炭酸カルシウムの沈殿を貝はアミノ酸で制御しています.それゆえ,貝殻の中にもアミノ酸が含まれるのです.だいたい4%くらいです(種や殻の構造にもよる).
その4%のアミノ酸は地層の中で徐々に分解していきます.日本のような火山列島の場合は地層に埋没して地下に行くとすぐに熱くなります.アミノ酸は熱に弱いので200度ぐらいから分解していきます.ですから日本産の化石では少し古い化石だとほとんどアミノ酸が残っていません.
でも例えば大陸の上などの比較的安定で,地層が地下深くにいかない場所などではアミノ酸はそれなりに残ります.約1億年前の白亜紀はさすがに時間が経ちすぎているかと思いましたが,一部の産地では分析可能な程度にはアミノ酸が残っているのです.といっても元々あった量に比べればずいぶんと少ないです.
少なくなる過程で,分析しても意味のない状態になっている可能性もあります.まだ結果はでていませんが,この産地のものを分析してダメならどこの産地を分析してもダメだよね,というベストな産地を白亜紀で見つけました.驚異的な化石の保存状態です(有機物が適切に残っていそうという意味で).いきなり白亜紀だと分析結果がでてもあっていそうかどうかわからないので,まずはモデルとしてポーランドの中新世の産地をつかいます.今年の4月-5月に調査して採集してきたのですが,そこもとても保存が良いのです.しかも,草食,肉食,腐肉食などある程度食性のわかる貝が多数含まれています.中にはウニ食という贅沢な貝もいます.これまでの人々の研究結果と同じような結果をアミノ酸の分析でもでてくるか,期待大です.
ここで成功すればここと同程度の保存状態の時代・場所でその時代の生態系を復元できます.
これから数ヶ月.焦る気持ちを抑え,じっくりと進んでいく気持ちが大事かもしれません.